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haco『文京区とその周辺のヴィンテージマンション』/都市のラス・メニーナス【#3-2】

2020年から「路上観察の現在地を探る」として、いろいろな方をお招きして、その方が見ているものの魅力、また、どうしてそういう視点に至ったかなどを、片手袋研究家の石井公二編集者・都市鑑賞者の磯部祥行がお聞きしてきたトークイベント『都市のラス・メニーナス』主としてYouTubeで配信してきた。「ラス・メニーナス」とは、17世紀にベラスケスによって描かれた、見る人によってさまざまな解釈を生じさせる絵画。街も、人によって、まったく異なる見え方をしているはずだ。

2025年6月より、東京の谷根千地域で建築・食・宿・アートなど、あらゆる方面で活動中のHAGISOが手掛ける谷根千地域のローカルメディア「まちまち眼鏡店」と組んで、新たな形でスタート。その第2回、hacoさんの『文京区とその周辺のヴィンテージマンション』が千駄木駅すぐのKLASSで開催された。

hacoさんは、建物を見るのが大好き。2025年5月には『マツコの知らない世界』の「ヴィンテージマンションの世界」に出演し、いくつかのとても貴重な取材をしながらその好きさを熱弁。また、以前もこのラスメニで「5枚の写真から語る『斜面マンション』」というテーマで語っていただいたことがある。

今回は、文京区とその周辺のヴィンテージマンション。そもそも「ヴィンテージ」とはなにか。現在、マンションはごく当たり前の住宅の形式だが、歴史的には何回かの段階を踏んでいる。「団地」と呼ばれるインフラとしての集合住宅は1950年代から整備が進み、「文化的」な住宅として憧れの対象となっていたが、1962~64年頃に、民間による分譲住宅として最初のマンションブームが興った。これを第一次マンションブームという。hacoさんの著書がある「秀和レジデンス」はこの時期に誕生した(下写真は秀和弥生町レジデンス)。

続いて、さまざまな社会経済を背景として1968~69年頃の第二次、1972~73年ころの第三次のブームとなる。まだまだ一戸建てや長屋が当たり前だったこの時代のマンションは、基本的には高級路線だった。それが、ヴィンテージマンションの魅力につながってゆく。

hacoさんが写真とともに紹介したのは、

・本郷ハウス(上写真;1970年10月竣工)
・鳳明マンション(1979年1月竣工)
・シャンボール文京(1971年3月竣工)
・ドミ小石川(1971年3月竣工)
・秀和弥生町レジデンス(1969年12月竣工)
・秀和湯島レジデンス(1969年10月竣工)
・秀和春日レジデンス(1978年1月竣工)
・秀和日暮里レジデンス(1983年4月竣工)
・湯島ハイタウン(1969年12月竣工)
・川口アパートメント(1965年3月竣工)

だ。中でも「川口アパートメント」については、今回、関係する方にもご登壇いただき、大変貴重な「中」の写真はもちろん、「住む」という観点からさまざまなお話をうかがった。

川口アパートメントは、俳優として、また『川口浩の探検隊』シリーズでも知られる川口浩が実業家として手がけた超高級マンションで、川口はアメリカの集合住宅の視察や研究を重ね、こだわり抜いて計画した。当初は5億円の予算だったが、結果的に8億円になるほど。当時のサラリーマンの月収が2万7000円ほどだったのに対して、41平米の部屋の家賃が8万円、150平米は36万円。

この川口アパートメントには、レストランやメイドルーム、洗濯室、そしてプールまでもがある。暖房はセントラルヒーティング。現在の「マンション」の概念とはかなり異なる。当時は画期的だったこれらの設備は、そのこだわりゆえに、汎用の設備や建具等が使えなかったりして補修に悩まされることがあるというが、住民は全員がこの川口アパートメントを愛しており、その協力体制も非常に強固なものだという。町内会的な地域集団が避けられる傾向にある現代において、密度の高い人間関係は、社会として、とても好ましいものだろう。

「ヴィンテージ」という語には、歴史があるとともに価値を感じるもの、というニュアンスがある。「ヴィンテージマンション」は、建物そのものもさることながら、住人の心持ちもまた歴史が醸成してきたものだということがよくわかるhacoさんのお話だった。

会場には、建築ウォッチングが好きな方が多く集まり、終了後の懇親会でも多くの出会いがあった。時代や社会とともに変化し続ける「路上観察」にまつわるさまざまな方々のお話をこれからもうかがっていきます。

この記事を書いた人ライター一覧

都市のラス・メニーナス

片手袋研究家の石井公二(@rakuda2010)と、編集者・都市鑑賞者の磯部祥行(@tenereisobe)がお送りする、「路上観察の現在地」をさぐるユニット。そもそも「路上観察」って、いやいやそれどころか我々が舞台とする都市や路上って、一体何なんだろう? 路上に飛び交う多様な視点。路上を見続けるうちに路上から見返されているような不思議な感覚。ベラスケスの絵画『ラス・メニーナス』を読み解くような気持ちで、皆さんの路上観察のお話をうかがいます。 過去のnoteはこちら。動画アーカイブはこちら。

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