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新しい「おとなりさん」に会いに、千代田線と総武線を乗り継いで

新しい「おとなりさん」に会いに、千代田線と総武線を乗り継いで

千駄木(文京区)と千駄ケ谷(渋谷区)はそれぞれ、地名を間違えられやすい地域同士でした。2024年4月1日の千駄木二丁目西町会(中の人たち)のX(ツイッター)に、同町会と千駄ケ谷二丁目町会が、「日本初の姉妹町会になりました」と発信して地元がざわつきました。エイプリルフールのダジャレなのか? その真偽とともに、背景をたどってみました。

「ありゃ」

千駄木二丁目西町会の佐々木富朗会長は、書類の「千駄ケ谷二丁目町会」と書かれた欄に自分の名前を書き入れてしまった。フルネームを書き終えてから気づいた。それくらい、両者の地名は似ている。

文京、渋谷両区長立会いのもとの、少しばかりかしこまった席。皆の視線が自分の手元に集中していたから、緊張してしまったのかもしれない。なにせ、「協定書調印式」なのだから。でも、笑うなよ。こんなことは、40年以上前から起きているのだから。



まだ家業を継ぐ前、サラリーマンをしていた頃のこと。銀座でタクシーを拾って「千駄木へよろしく」と行き先を告げた。酒席の帰りだったこともあり、後部座席で寝入ってしまった。目覚めると、見慣れた景色が広がって…いなかった。何かが違う。

「お客さん、千駄ケ谷と言われたでしょう」とタクシー運転手。眠っている間に文京区千駄木でなく、渋谷区千駄ケ谷まで運ばれてしまったのだ。酔いが一気に醒めた。

乗車地点の銀座からみて、千駄木はほぼ真北の方向で、千駄ケ谷は西だ。距離にして双方は10キロ近く離れている。にもかかわらず、運転手は千駄木という地名を認識しなかったのか。しかし、無理はないかもしれない。千駄木にはかつて都電が走っていた時期があるものの、地下鉄千代田線が1969(昭和44)年に開業して千駄木駅ができるまで、千駄木がどこにあるかは、地域住民のほかは東京都民でも知らない人が多かった。

今となっては大昔の笑い話だが、ときどき地元の人たちに披露すると、「あるある〜!」という声も割と聞く。

Screenshot

プレスリリースが出ている。「日本初 姉妹町会の提携を発表」「相互直通バスの運行を開始する」? これはもう、エイプリルフールのねたに違いない。しかし、成澤廣修・文京区長と、長谷部 健・渋谷区長のコメント付き。ちょっとやり過ぎではありませんか。怒られちゃいますよ。大丈夫? 筆者(ユミネコ)はそう思った。

「2024年4月1日午前11時02分: 号外 [4.1 NEWS RELEASE] #千駄木 #千駄ケ谷 #4月1日のアレ」

なんと、「号外」まで出た。エイプリルフールにしては手が込んでいる。エイプリルフールを装った本当のニュースかも? 確かに、千駄木から渋谷へ行くのは割と面倒だし、相互直通バスがあれば便利になる。それぞれ特徴が違うエリアだから、両地域は競合しないかもしれない。

「2024年4月2日午前7時16分:#昨日のアレ がホンモノの新聞記事になりました!パチパチ👏」

「実は『似た地名同士』の町会役員が仕掛けた、エープリルフールのウソ。住民から『やられました』『本当かと思った』といった声が上がった」と、新聞記事に書いてある。え。どういうこと?

記事を最後まで読むと、「住民を巻き込んで提携への歩みを進めようと、両町会は4月下旬、根津神社(文京区)で開催中の『文京つつじまつり』を共に見学し、実務者会議を開く予定。ウソではない。」(出典はいずれも、東京新聞2024年4月2日 07時28分配信「千駄木と千駄ケ谷 バス相互直通運行? 似た地名の町会が仕掛けたエープリルフール」)

やられた! ウソの中に、一部の真実を絡ませている。手が込んでいる。しかし、筆者は悔しかった。ライターなのに、騙されてしまったから。不忍通り(我らが千駄木のメインストリート)を疾走するハチ公バス*(写真下)を思い描いて、ちょっとワクワクしたから…。*渋谷区のコミュニティバス


よって、冒頭のセレモニーはエイプリルフールの話題を仕込むための場だったのだ。

千駄木駅から千代田線に乗って新御茶ノ水で降り、隣接するJR御茶ノ水駅から黄色い車両の総武線に乗り換え。千駄ケ谷駅で降りると、千駄ケ谷二丁目町会の御子柴敏会長ら二人が改札口で待っていた。

駅前には、二度の東京五輪の会場になった東京体育館が広がっていた。御子柴会長に案内されながら駅前の通りを少し歩くと、こんもりとした木々に囲まれた鳩森八幡神社が鎮座している。白鳩にちなむ由緒ある神社で、絵馬には白鳩が描かれている。鳩の形をしたおみくじがかわいい。千駄ケ谷二丁目には、将棋会館もある。将棋ファンならずとも知っている、あの場所だ。

千駄木二丁目西町会の佐々木会長ら一行はこうして、「協定書」の前に臨んだ。

「あ。そこは『千駄ケ谷』ですね」。立ち会っていた文京区の成澤区長がさりげなく指摘した。千駄木二丁目西町会長の署名を、千駄ケ谷二丁目町会長の欄に書き入れていた。千駄木二丁目西町会企画部の内山昇さんが、書き直し用の予備をサッと差し出す。佐々木会長の名誉のために強調しておくが、双方の町会名が間違えやすいのは、すでにお気づきの通りだ。

千駄木と千駄ケ谷。今でも間違えられてしまう町名はそれぞれ、同じ東京の、山手線内にある地域だが、表情が大きく違う。だが、地域の自治組織として課題に感じていることには、共通点も少なくないと、話し合ってみて感じた。まずは防災活動において、互いの知見を共有していくことで合意した。

「調印式もどき」の交流会が終わり、周辺を散策して帰ることにした。千駄ケ谷から徒歩圏内の原宿へと、日曜日の竹下通りを皆で歩いた。自撮りした記念写真をみると、竹下通りを歩くおじさんたち(自分たち)と若者との間に境界線が引かれているように見えなくもない。竹下通りで自分たちは浮いていたのかもしれないが、目的を同じくする仲間を自分たちの暮らす街から少し離れた、違う土地に見つけたことが、うれしかった。

「このあたりに居酒屋はないのかな」なんて言いながら、遠くて近かった街を後にした。

渋谷区では2017年から、「渋谷おとなりサンデー」と呼ばれるイベントが毎年6月の第一日曜日に区内一円で開かれてきました。ゲームをしたり清掃活動をしたりと、地域ごとにさまざまな催しを行うことで、地域住民の交流の場となっています。2024年の該当日である6月2日は、あいにくの雨予報を受けて、縮小して開催されました。文京区の千駄木二丁目西町会は、千駄木界隈では知らない人はいないという人気ゲーム(?)「ピンポンdeポン」を引っさげて千駄ケ谷二丁目町会版のおとなりサンデーに参加する予定でしたが、次なる企画にその機会は持ち越しとなりました。

写真は、千二会館で出番を待つ「ピンポンdeポン」一式。残念でしたが、次の出番を楽しみに! 両町会の次なる交流事業も、すでに検討が進んでいます。乞うご期待!

この記事を書いた人ライター一覧

ユミネコ

ライター 2023年秋、千駄木にて神輿デビュー。憧れの人は諸葛孔明。株式会社ポッセ・ニッポン代表

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