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児童書の出版社営業から、谷根千の路地裏で個人で本屋を構えることに。約15年このまちに住み、愛着を持って「本屋のある風景」を守り続ける「ひるねこBOOKS」の小張隆さんにお話を伺いました。

店主の確かな眼差しで選ばれた本と北欧中心の雑貨が並ぶ店内は、静かで穏やかな空気に満ちています。

(聞き手:まちまち眼鏡店 ふじ・すえ)

住み続けたまち「谷根千」で本屋をはじめた経緯

すえ: 小張さんが本屋さんを始められた経緯を伺いたいのですが、昔からの夢だったのでしょうか?

小張さん: いえ、実はもっと現実的なきっかけなんです。僕は元々、児童書の出版社で8年間営業をやっていました。北は北海道から南は沖縄まで、全国の書店さんを回る日々で。

すえ: 全国各地を! 営業のプロだったんですね。

小張さん: そうかもしれません(笑)。でも大きな会社にいると、どうしても数十年のロングセラーを売ることに力が割かれて、新しい作家さんや光る新刊を真っ当に紹介するのが難しい面もあって。「だったら自分で、一人で手が届く範囲の場所を作ってみよう」と思い立ったのが30歳を目前にした頃でした。

すえ: 出身はどちらなんですか?

小張さん: 杉並の荻窪です。中央線沿線も本屋文化が根付いた街ですが、店を出すなら自分が2013年から住み続けているこのまち(谷根千)がいいなと。わざわざ遠くへ通勤するより、自分が好きで暮らしている場所で商売をするのが、一番自然だと思ったんです。

ふじ: 約15年住まわれていて、街の変化はどう感じますか?

小張さん: 正直、観光地化が進んで食べ歩きの店が増えたことで、生活の街としての良さが薄れてしまった面もあります。でも、最近はこの辺りに新しい個人書店が増えていますよね。本屋が点在するこの街の風景は、やっぱりいいなと思います。

通りに名前を。地域と「切手」で結ばれる関係

小張さん: 前の店舗の時、近所のCOUZT CAFEの椿さんと「この通りに名前をつけたいね」って話し合ったことがあるんです。

ふじ: 通りに名前をつけるって、すごい発想ですね!

小張さん: 椿さんが一軒ずつ挨拶回りに奔走してくれて、SNSで公募もして。その通りのお店の店主が集まって店主会もするようになって。でそうしたら、「tokyo bike」のきんちゃんが『キッテ通り』はどう?とアイデアをくれました。郵便局や切手の買取しているお店もあるし、人と人を結ぶイメージもぴったりだねって。それが今では台東区の公式な愛称事業になったんです。

ふじ: まさに、お店同士の繋がりが形になったんですね。小張さん: 自分の店だけが儲かるなんてことは絶対にない。地域のお店と協力して、街全体に人を呼び込む努力をしない限り、個人の店は続いていかないと思っています。

小張さんの “まちゆきまかせ” -坂の上から見下ろす、この街の呼吸-

ふじ: 小張さんは以前から「坂が好きだ」とおっしゃっていましたよね。
この界隈は本当に坂が多いですが、特に思い入れのある場所はありますか?

小張さん: そうですね、やっぱり三浦坂の佇まいは格別ですし、赤字坂の上からの風景も、マンションが建って少し空が狭まったとはいえ、今でも大好きです。
坂の下からグッと見上げる時の迫力や、逆に上から街を見下ろす時のあの解放感。
自分でも「ああ、僕は坂そのものが好きなんだな」って、歩くたびに再確認してしまいますね。

ふじ: 2013年から住み始めて、もう15年近く。この街のリズムが身体に馴染んでいるんでしょうね。

小張さん: そうかもしれません。以前、谷中の方に住んでいた時期があるんですが、当時は朝、お寺の鐘の音で目が覚めていたこともあったんです。 

ふじ:谷中の朝に、鐘の音…。なんて贅沢な目覚め。

小張さん: 「ゴーン」という音を聞きながら起きる。そんな、東京のど真ん中とは思えない静かな日常が、僕がこの街に住み着いた原点にある気がします。

今は自転車で通勤していますが、たまに気分を変えて三崎坂を一気に下る時は、当時の感覚を思い出すというか。本当に気持ちがいいですよ。

すえ: これからの季節は風が抜けて最高ですね。

小張さん: ええ。お隣の団子坂は車通りが多くて少し身構えてしまいますが、根津側の坂道は車が少なくて、人と自転車がのんびりと行き交っている。

あの「追い越されない」感じの、ゆったりした空気がいいんです。
この「高低差」が生む迷路のような路地裏こそが、この街の魅力ですね。

小張さん: 僕は、この街を「本屋を回遊するように」歩いてほしいと思っているんです。
坂を一つ越えるたびに、新しい本を開くような感覚。

かつて聞いた鐘の音のように、どこか懐かしい風景を探して遠回りを楽しむ。
そんな「まちゆきまかせ」こそが、このまちの楽しみ方の一つじゃないかなと思っています。

📍ひるねこBOOKS

住所:東京都台東区谷中2丁目5−22 山岡ビル 101
HP:https://www.hirunekobooks.com/

💭店長・ふじの一言!
宝物を探すような感覚で、気になる本と出会える小さな本屋さん。
行く度にギャラリーで色々な作家さんの作品と出会えるのも、楽しみの一つ。

#まちゆきまかせインタビュー
現在JR日暮里駅コンコースで販売中のよりみちまっぷがちゃ。マップづくりを支えてくれた、谷根千のまちで活躍する8人たちの店主たちへの、インタビューシリーズです。そんな店主たちが、普段どんなふうにこの街を歩き、どこに心惹かれているのか。彼らの視点から語られる「まちの楽しみ方」をお届けします!

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hagistudio

谷根千ローカルメディアとして、ニッチでコアな谷根千の楽しみ方を記事やイベントを通して発信している。 記事だけでなく、まちの人たちが企画を持ち込み、まち歩きイベントやトークイベントを不定期で開催している。 運営主体:株式会社HAGISO

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