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根津の「根」を見つめて──「ねづくりや」鶴元怜一郎さん

根津の「根」を見つめて──「ねづくりや」鶴元怜一郎さん

ねづくりや代表、鶴元怜一郎さん。写真:秋山堅

根津観音通りにこの春オープンしたのが、「街の『根っこ』を学ぶ、人と人の繋がりを築くよろず屋」をコンセプトにした飲食店「ねづくりや」だ。

お店の中を覗いてみると、子どもからシニアまで様々な年代が集まり、いつも賑やかだ。棚には駄菓子や野菜、食器まで並んでいる。どうやら普通の飲食店ではないらしい……。そもそも根津の地を選んだきっかけは? お店のテーマである「街の根」とは? 代表の鶴元怜一郎さんに話を聞いた。

ねづくりや外観。入り口横に掛けられた黒板の絵は、近所の子どもが描いたそうだ。写真:秋山堅
おひるごはん定食 税込1,000円。料理の内容は日替わり。ジューシーな唐揚げと、羽釜で炊いたご飯、バリエーション豊かな副菜、アツアツの味噌汁。どれを取っても美味!写真:秋山堅

根津と出会い、根津に根付く

ねづくりや代表の鶴元怜一郎さんは、もともと大学時代に古民家の再生について研究をしていた。大学のゼミ活動のなかで、空き家再生を行う建築事務所などへ取材をしていくうちに、自分自身もデザインだけでなく空き家を利活用するような建築家になりたいという気持ちが高まっていったそうだ。

そのため、大学での勉強のみならず、建築現場でアルバイトを重ねDIYスキルを身に着けた。厳しい職人さんに鍛えられながら、色んな現場の工事をしているときに出会ったある一つの物件。それがじきに初代「ねづくりや」となる、旧タバコ屋の建物だった。民泊にリニューアルすることになり、そのリノベーションの手伝いをすることになったのだ。

「実は、その時初めて根津に行きました。当時は交通費も払いたくないぐらい貧乏だったので、こっそり現場に泊まらせてもらっていたんです。年配の職人さんが多いから、僕みたいな若者は珍しく、近くの銭湯に入ったりご飯を食べに行くと、『兄ちゃん、何してるの?』とまちの人が声をかけてくれるんですよ。それで話しているうちにどんどん仲良くなって。現場が終わる頃には根津のことが好きになっていました」(鶴元さん)

民泊として生まれ変わった旧タバコ屋だったが、2年ほどの営業の後に、法改正のため営業が終了してしまう。そこで、建物の管理者からリノベーションを手伝った学生たちに「住んでみないか?」と声がかかった。鶴元さんは仲間たちと一緒に改めてその建物をリノベーションし、シェアハウスとして活用し始める。それが、初代「ねづくりや」だ。2019年のことだ。

「1階に広い土間があって、そこはある種、中でもあり外でもある空間だったんです。ドアを開ければお店になるし、ドアを閉めればシェアハウスのリビングになる。そこでアイスクリーム屋さんをやったり、茶道教室やったり、ギャラリーにしてみたり。様々な取り組みをしたんですけど、いくつかの企画がヒットしたんです」(鶴元さん)

後にアイスクリーム屋は独立し、西日暮里駅前の複合施設「西日暮里スクランブル」で実店舗を開くことに。更にギャラリーに展示をしていた作家が自分のお店を持つなど、初代ねづくりやで試験的に行った取り組みがどんどん展開していき、様々な拠点が増えていった。

旧ねづくりやの外観

「初代ねづくりや」から「新ねづくりや」へ

順調に思えたねづくりやだったが、その終わりは突然訪れる。土地のオーナーが建物を取り壊し、そこに新築を建てることを決めていたのだ。わずか2年ほどで、初代ねづくりやはその歴史にピリオドを打つことになってしまった。

「取り壊しが決まって新築のプランを見せてもらったんですけど、ものすごく普通のマンションのようなプランだったんですよ。正直これではつまらないなと思って」(鶴元さん)

オーナーは初代ねづくりや時代から、鶴元さんらの活動を面白がって見てくれていた。そこで鶴元さんは、当初のプランを一度保留にして、自分に新たなプランを考えさせてほしいと提案する。

「前々から『ねづくりや』という仕組みを色んなまちの1階にインストールしていけば面白い商店街ができるんじゃないかと思っていたので、これを機にこの地でもう一度、ビジネスとして『ねづくりや』をやろうと思い、起業を決意しました」(鶴元さん)

様々な企業や大学へプレゼンを行い、連携を交渉。その結果、「空き地、空き家、空きまちの再生プロジェクト」の一環として、建築解体から都市再生までを手がける株式会社テクノという会社が、事業を全面的にサポートする立場として関わってくれることとなり、2つの大学が産学連携をしてくれることになった。それが担保となり、オーナーも納得の上でねづくりやの再始動に踏み切ることができたのだ。

今の時代に「新築」を建てる意義

「僕は基本的に、今の時代に新築は必要ないと考えているんです。人は減っているのに、それ以上建物を作る意味って何なんだろうと」(鶴元さん)

初代ねづくりやで、鶴元さんは「空き家を地域のために活用する」という取り組みを行っていた。しかしながら建物というのは有限のもので、時間の経過とともに老朽化していく。そしていつかは壊さないといけなくなる日が来てしまう。実際に、今の時代に空き家を再生しても、数十年しか使い続けることが出来ない。

「古い建物のを活用することも大事だけど、その土地にもう一度建つ新築、次の時代にもその時代特有のエネルギーや繋がりが生み出せる、そんな建物を建てる作ることが出来れば、新築だけど新築じゃない温かさが出せるんじゃないかと気付きまして。そこで『ねづくりやは新たに建てる意義がある』と、次世代の建築を担う人間としても納得できたんです」(鶴元さん)

「街の根」を知り、地域と繋がる

現在のねづくりや店内の様子

新たな建物で、再スタートを切ったねづくりや。そのコンセプトの中では、「街の『根っこ』」というキーワードが大きく掲げられている。果たして「街の根」とは、一体どのようなものなのだろうか。

「まちに人を集めて商売を成立させたり、活気づけるためには、みんながわかりやすい情報に無理やり合わせないとやり辛いところはあると思うんです。『お店がたくさんあるから来てください』とか、『駅から何分です』とか」(鶴元さん)

こういった情報は、インターネットで検索して出てくるような「表面的な」まちの魅力である。これに対して鶴元さんは、「内面的な」まちの魅力に目を向けていきたいと語る。

「道端で話すご近所同士の会話とか、子供たちの声とか、部屋で寝ているといきなり起こしに来る近所の悪ガキとか。そういったまちにある一つひとつのシーンは、見えづらいけど確かに価値がある。実は、こういったものがまちの土台にあり、まちの魅力を作っている。それを『街の根』と定義してみたんです」(鶴元さん)

ねづくりやでは、「街の根」を知る活動の一環として、定期的にまち歩きのイベントも行っている。根津のことをよく知っている人をまち歩きの案内人として呼び、スタッフとゲスト、そして参加者の3者が一緒に歩き、お店に帰ってきて感じたことをシェアするといった内容だ。

「改めてお店として、根津を学び直している最中です。自分たちがこのお店のことを『街の学び舎』と呼んでいるから、『ねづくりやに来たら、何か教えてもらえるんでしょ』と、僕たちが先生だと勘違いされがちで。そうではなくて、どちらかというとお客さんと一緒に学びたい。まだまだ根津1年生だと思ってますから(笑)」(鶴元さん)

飲食店の枠に囚われない活動を

「街の根を街の人と一緒に学ぶ」姿勢を大事にしているねづくりやだが、まちの外の人とのつながりも大事にしている。現在、奈良県立医科大学と、産学連携の一環として「ねづくりやを通して、まち全体の医療費を下げる」という社会実験に取り組んでいるそうだ。

「飲食店だからと言って、ただご飯を食べてもらって終わりではなくて、ご飯を食べてもらうことで何かまちに良い影響を与えたい。そこで、『日々うちのご飯を食べてもらって、健康で元気になってもらえば医療費がは下がるんじゃないか』という仮説を立てまして。単純に『おしゃれで美味しいランチ』ではなく、『美味しく、自分の健康にも向き合う時間になる健康ランチ』を出そうと考えています」(鶴元さん)

今はまさにその試験期間。近所のおじいちゃんおばあちゃんや若者など、様々な世代の人に協力してもらい、ご飯を食べてもらった上で色んな測定をしたり、意識調査をしている段階だ。7月からは調査をベースにした特別メニューが実験的に販売開始となった。

「ねづくりやは単なる『飲食店』ではなくて、飲食店を中心としながら色んな実験をやっているので、お店の中で体重計に乗っているおじいちゃんがいたりとか、謎の光景がよく垣間見えますね」(鶴元さん)

「ねづくりや」を全国へ

思いがけない偶然の出会いから始まったねづくりやは、様々な困難を乗り越え、今再び根津の地に根を張り始めている。最後に、鶴元さんが思い描く未来像について伺った。

「『ねづくりや』のように、地域との繋がりを生み出すハブとなるようなお店の出店をサポートする事業も展開したいと思っています。ゆくゆくはそれぞれのお店があるまちの情報が根津に還元され、魅力を交換し合える仕組みも作っていきたいです。『ねづくりやみたいなことがしたい!』って思ってくれる人が増えてくれば嬉しいですね」(鶴元さん)

スタッフの皆さんと共に。撮影:秋山堅

この記事を書いた人ライター一覧

石井 正将

2001年生まれ。大正大学表現学部在籍。専攻は「街文化」。街の構成要素や面白さを多面的に分析し、それを自分の表現に落とし込む方法を模索している。趣味は路上観察、楽器演奏。

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