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あなたの町を私は知らない ──地図から始まる谷根千まちがたり 第0回(前編)

あなたの町を私は知らない ──地図から始まる谷根千まちがたり 第0回(前編)

地図から始まる谷根千まちがたり

いま暮らしている人、過去に暮らした人、あるいは通っている人。まちと人の関わり方が千差万別であるように、それぞれの人から見るまちの姿もそれぞれきっと違っている……。

この連載では、谷根千ご近所の何かしらの形で関わったことのある人に、それぞれが考える「あなたのまち」の地図を描いてもらい、それを見ながらおしゃべりをしていきます。そこから浮かびあがるのは、自分とまちとの関係性でしょうか? 忘れていたあの場所でしょうか? それとも誰かとの思い出でしょうか?

「違う風景が見えている」ことをまちの豊かさととらえ、それぞれの物語を伺います。

わたしたちについて:まちがたり実行委員会

2019年に谷根千地域で開催したトークウィーク「まちがたり」をきっかけに集まった「まち」を歩いたり、観察したり、まちについて話したり……つまり「まち」を愛する人々の団体。
この連載でみなさんからお話を伺うのは、以下の3名です。

石井:1980年東京生まれ。2000年より根津在住。片手袋研究家。
内海:1995年東京都江戸川区生まれ。2017年、大学のフィールドワークをきっかけに根津に通い始める。2020年より根津在住。
ムカイボウ:1981年福岡県生まれ。2012年より千駄木~谷中在住。しかしただいま引っ越し検討中につき、10年ぶりに通いの谷根千民になるかどうか……。

はじまりは「まちがたり」

石井:この企画に至るまでの説明として、2019年の「まちがたり」の話から始めましょうか。私たち3人は「まちがたり」の運営メンバーです。
古くから住んでいる人、新しく越してきた人。商店同士の繋がりや、子育て世代の繋がり。谷根千には様々なネットワークや、属性や価値観が異なる「レイヤー」が幾つもありますし、それはこの町の豊かさだと思います。
しかしそれぞれのレイヤー内には密接な関係があるかもしないけど、異なるレイヤー同士の交流ってあるんだろうか? 例えば観光地化した谷根千を楽しんでいる人もいれば、「生活空間に入って来ないでほしい」と思ってる人もいる。でもその両者がお互いの考えを知る機会ってあまりないですよね。
そういう問題意識があって、いろんな町の見方をしている方たちをお招きし、いろんなレイヤーの人たちが同じ場所に集って話を聞く「まちがたり」という連続トークイベント企画を2019年に立ち上げました。

ムカイボウ:まちを観察する人や描く人、介入するひとたち。路上の園芸、銭湯、空想地図、歩行者天国、地域メディアなど気になるテーマで活動するゲストの方たちをお招きして、1週間、毎回開催する場所を変えてお話を伺いました。

まちがたり第一夜「“既にある場”の活かし方」の様子 (ゲスト:岸野雄一 会場:さんさき坂カフェ)

内海:「まちがたり」という名の通り、まちについてのたくさんの「語り」が生まれたと感じています。登壇者も参加者も、必ずしも町の代表者ではないし、専門家ではないし、住んでさえなかったりする。それでも町のことを語っていい。「まちがたり」には実は「まちがったり」してもいいよねという意味も込めてたんです(笑)。そういう場って意外となかったと思うんです。
毎日会場が違ったこともポイントですね。全部別々に交渉しないといけないし、オペレーションも違うし、運営側はもう大変なことしかないんですが(笑)。カフェ、本屋、大学、イベントスペースと、個性ある場所を巡るなかで、まさに「町」を舞台に人を掻き回して、偶発的な出会いを生み出すことができました。

石井:もちろん、2020年以降も継続して開催する予定だったし、新たなテーマも決めていたんだけど、コロナで中断してしまったんです。でも今回、まちまち眼鏡店の話を受けて3人で再始動しよう!となりました。

それぞれの「町」を知るための<地図>

石井:コロナによって祭りとかもなくなり、人が集う機会が激減したいま、「何をやるか?」って話になったんですよね。そもそも「町」というテーマどころか、あらゆる場所であらゆる問題が押し寄せちゃってるわけだから。
ただ、いまの状況は「まちがたり」を立ち上げたときに持っていた問題意識を、さらに顕在化させてしまった気もしていました。だって「谷根千を散歩する」なんていうことですら、例えば感染状況などによってはいろんな考えがありうるわけだから。
だったらいまできることは「みんなもう一回、一緒に集おう!」じゃなくて、むしろ「みんなそれぞれ違う思いで、違った形の町を見ている」って知ることなんじゃないかと。まちがたりの第一夜にお越しいただいた岸野雄一さんが、「“ここ”にいない人のことを考えたい」と仰ってたのもすごく印象に残ってたので。

内海:谷根千という町で何かやろうとするとき、偉大な先達である地域雑誌『谷中・根津・千駄木』の存在はやはり忘れることができません。当時特に個性がないと思われていた地域の歴史、文化、暮らしから、「谷根千」という町の姿を鮮やかに描き出したわけです。それを受けて私たちが「新しい谷根千像」を見つけるなんて難しい。むしろ、ますます多様化している価値観が、多様なまま共存している様子を、そのまま見てみたいと思ったんです。

石井:ちょうど社会学者の岸政彦さんが編集した『東京の生活史』(筑摩書房)という本が出たのも大きかった。この本は、一般から募集した150組の語り手と聞き手がそれぞれの「東京」にまつわる語りをまとめたものなんですが、見ず知らずの人の人生の一部、生活史、東京論が詰まっていてとても影響を受けました。そういうことをこのまち、谷根千でもできないかな?と。

内海:「町」に特化したインタビュー企画をやりたいと話す中で、「地図」というキーワードが出ました。古今東西さまざまな地図がありますが、念頭にあったのは建築や都市計画の分野の「イメージ・マップ」という研究手法です。子どもに地図を描いてもらって、子どもが遊び場や生活空間をどう認識しているのか分析するような方法です。
それからもう一つ、サトウアヤコさんの「日常記憶地図」という取り組みも参考にしました。個人の日常を地図にプロットすることで、普段意識することのない場所の記憶や風景が立ち上がります。
今回はこの2つの合わせ技で、いろんな人に地図を描いてもらって、その上に普段行くお店や好きな場所をプロットしてもらい、どういうふうにまちで暮らしているか、まちを見ているかを浮き彫りにしよう、という挑戦です。

参考にした資料の一部

ムカイボウ:私が「地図」というキーワードで思いだしたのは、 デザインスタジオの「POSTALCO」 のZINEでした。「MAPS」というタイトルで、デザイナーのマイク・エーブルソンさんがいろんな人に地図を描いてもらって、それを集めたもの。「mini book」というシリーズで、「MAPS」、「RECIPES」、「SIGNS」、「LETTERS」の4種類があったのかな?
手描きの地図って、とてもパーソナルな情報がつまっているから、いつかこういうものを作ってみたいなと思っていたので、地図とインタビューを組み合わせるのはいいなと思いました。

右が「MAPS」(2005年初版)

石井:僕が地図で思い浮かべたのは、「世界の村で発見!こんなところに日本人」というテレビ番組。現地の人に地図を描いてもらうのが面白いの。ただの短い一本線が、実は数十kmもある道のりだったり。距離感覚ってその土地で暮らす人固有のものがあるみたい。
あと地図ではないけど、僕が大好きな赤瀬川原平さんの「千円札スケッチ」も思い出しました。いろんな人に記憶だけで千円札を描いてもらうんだけど、誰もきちんと描けないし全部違う。何気ない線や描写から、人によって見ているものが違うことが鮮やかに浮き彫りになる面白さがあったんです。
地図を描いてもらうことで、「町」や「谷根千」と聞いたときにそれぞれ思い浮かべるものの差異が分かるかもしれない。

内海:そのような話し合いを経て、地図を出発点に話を聞いていこう、ということになりました。ゆくゆくは、話したこともないような人とか、全然違う視点からまちを見ている人にも話を聞いてみたいですが、まずは初回の実験として、自分たちが描いてみることにしました。

お互いよく知っているこのメンバーの間ですら、意外なところもあるはず。さっそく石井さんから見せてもらいましょう。

(後編に続きます)

この連載では、事前に「あなたの町」の地図を描いてもらい、それをベースにインタビューを進めます。勿論、匿名での掲載もOK。なるべくいろんな人にお話を伺いたいと思っていますが、直接のご依頼には限界があるので、参加していただける方を随時募集しております。興味を持たれた方は、ぜひ下記メールアドレスまでご連絡ください。
※お名前や顔写真を掲載しない形でのインタビューも可能ですのでご希望があればお知らせください。

まちがたり実行委員会
machigatari.yns@gmail.com

この記事を書いた人ライター一覧

まちがたり実行委員会

2019年に谷根千地域を舞台に始まった、「まち」についての「かたり」を聞く連続トークイベント/リサーチ企画「まちがたり」の運営メンバー。現在は谷根千に住む3人 石井 公二(いしい こうじ)・内海 皓平(うちうみ こうへい)・向坊 衣代(むかいぼう きぬよ)を中心に活動中。 WEBはこちら

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