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作曲家の眼鏡「音楽にうつしとる、誰かの毎日」──vol.1 食の郵便屋さんTAYORI

作曲家の眼鏡「音楽にうつしとる、誰かの毎日」──vol.1 食の郵便屋さんTAYORI

まちまちな「まち」の人の眼鏡

“谷根千ご近所”に暮らす人・ゆかりのある人から寄せられたエッセイを紹介するコーナー「まちまちな『まち』の人の眼鏡」。今回は谷中での音楽イベントや千駄木の「まちの教室KLASS」で「はなうたからつくる音楽会」という曲づくりのクラスでご活躍される西井さんにご寄稿いただきました。

 谷中銀座商店街、路地に迷い込んだら

たくさんの人で賑わう谷中銀座商店街からわきへそれ小道を行くと、一軒家のようにひっそりと佇むお店に出会います。お惣菜・お弁当・コーヒーの「食の郵便局 TAYORI」。ご飯やお茶の時間、お弁当のお持ち帰り、焼き菓子のおみやげなどを求め、ご近所の方が集う人気店です。

私がTAYORIと出会ったのは2017年、お店ができる直前のこと。これからお店で働くスタッフやお客様にTAYORIのコンセプトが浸透するようなテーマソングをつくってほしいと、作曲の依頼を受けたのがはじまりでした。

ここで少し自己紹介をさせていただきます。

私は作曲家で、普段は舞台作品や映像などに楽曲提供をしています。そのかたわら、人が奏で、つくり始める瞬間に魅力を感じ、学校、文化施設や福祉施設、病院、地域のお店などで「自分の歌をつくってみませんか?」とお誘いし、一緒に作曲をしてきました。こんな突然の提案はおせっかいかな……と思いつつ、共に歌詞を考えメロディーを口ずさむことで、その方の日常や魅力が歌の中に浮かび上がり、またそれらが歌にのって遠くの誰かに届くことが興味深く、続けています。

Dear Someone プロジェクト
https://nisiiukiko.wixsite.com/dearsomeone/home

まちのお店の歌づくり

さて、話を「TAYORIのテーマソング」をつくった時のことに戻します。

まさにこれから生まれようとしていたTAYORI。お店が開店する前の歌づくりは経験したことがなく、未来を描いていくようでとてもおもしろい作業でした。

まずは出来上がった歌をお聴きください!オープンを目前にして慌しい中、楽器を持ち寄り集まってくれたスタッフの皆さんと一緒に演奏した様子がこちらです。

「TAYORIのうた」(STAFF ver.)

TAYORIのうた

お惣菜 お弁当 コーヒーのTAYORI

まっかなトマト どんな人が作ったのかな

わたしの作ったトマト どんな人が食べるのかな

TAYORIは食の郵便局です

あなたの想いを便りにのせて

谷中銀座商店街 路地に迷い込んだら…

お惣菜 お弁当 コーヒーのTAYORI

日本中のおいしい食べ物 お惣菜にのせて

あなたに届け 育てた人の想いをのせて

ごちそうさま ポストカードに綴るありがとう

あなたに届け 食べる人の言葉をのせて

TAYORIは食の郵便局です

作る人とと食べる人をつなぐよ

谷中銀座商店街 路地に迷い込んだら…

イートイン!?テイクアウト!? どちらもどうぞ

ララ お惣菜 お弁当 コーヒーのTAYORI

歌詞はTAYORI責任者の北川瑠奈さん(ぽんちゃんと呼んでいるので以下、「ぽんちゃん」と書きます)と相談しながら、一緒につくったものです。話を聞きに行くと、ぽんちゃんの熱い思いを知ることになります。

ぽんちゃんたちは全国を旅して、その土地を自分の足で歩き、出会った農家さん、生産者さんと会話をするところからお惣菜作りをはじめていました。また、食材を提供してもらうだけではなく、食べる側の人の声も生産者さんに届けたい、それら一連のつながりを「食」ととらえようとしていたのです。食材の生産者=「つくる人」と、お店に訪れるお客さま=「食べる人」が手紙をかわすようにつながっていく、「食の郵便局」になることを目標に。

不思議なのですが、TAYORIはお店としてはじまる前から離れた距離、人々の間を行き来するエネルギー、熱のようなものと共にありました。それが、お店ができてからもずっと続いているのを感じます。

食べる人は「食の郵便局コーナー」で、全国の生産者さんへ実際に手紙を書くことができます。また、つくる人から送られてくる野菜などにも、季節の手紙がそえられています。

TAYORIではお惣菜一つに、たくさんの物語がつまっています。このお野菜はどこどこのだれだれさんがこんなふうにつくっているよ、こんな方で、こうやって知り合ったんだよ、など、エピソードまで味わいながらいただくのです。お腹の満たされ方が普段の食事とは少し違い、食べ終わったころにはまるで心も体も旅をしたみたいです。

店内には丁寧に育てあげられた素材、素材を活かしおいしく料理するスタッフ、それをゆったりと味わう人々が集まり、「食の郵便局」のコンセプト通り、TAYORIという場が顔の見える関係を築きつなぐ役割を果たしているようです。

この「TAYORIのうた」にはシンガーソングライターの野田薫さんが歌うバージョンも存在し、開店当初お店の中で聴くことができました。キッチンで揚げ物を揚げる香ばしい音、トントンと爽快な包丁の音、タイマーや氷の音なども店内でレコーディングして曲に盛り込んでいます。 野田さんのすてきな歌声でも、ぜひ味わってみてくださいね。

「TAYORIのうた」(野田 薫さん ver.)

はなうたからつくる音楽会

「TAYORI」やこの「まちまち眼鏡店」を運営するHAGI STUDIOが手がけるものの中に、「まちの教室KLASS」というところがあります。KLASSは、暮らしと学びを近づけるというコンセプトから生まれた場です。一方的に知識を提供する教室というよりは、いろんな人の好奇心を持ち寄る場としてはじめられました。

私はここで毎月最後の日曜日「はなうたからつくる音楽会」というものを開催しています。曲をつくったことがなくても、音楽に詳しくなくても、日々のできごとを鼻歌を歌うように音として綴ってみませんかと呼びかけ、みんなで日々のいろんなことを話しながら曲づくりを続けています。

今後「はなうたからつくる音楽会」メンバーと一緒にまちまち眼鏡エリアを歩きながら鼻歌づくりをする「はなうた散歩」が実現できたらいいな、とぼんやり妄想しています。

はなうたからつくる音楽会@エキラボniri
Photo uta

曲をつくりたい人募集

もう一つ、TAYORIでテーマソングをつくらせてもらったように、まちまち眼鏡の地域にある様々な場所で、「お店のうた」、「まちに関わる私の曲」を一緒につくる機会をもてないかな、と考えをめぐらせています。

私が持っている眼鏡は音楽の眼鏡なのですが、他の方が音楽眼鏡をかけたら、まちはどんなふうに見えるだろう、どんな音が聴こえるかな、少し覗かせてもらえたら嬉しいなという気持ちでいます。

もし一緒に曲をつくってみたい方、自分のお店のうたがほしいなぁという方がいらっしゃいましたら、ぜひぜひご連絡ください。

お問い合わせはこちら
MAIL:nisiiukiko@gmail.com

この記事を書いた人ライター一覧

西井 夕紀子

作曲家。ダンス、演劇、ドキュメンタリー映画への楽曲提供を行う。オールフィメールロックバンドFALSETTOSではKey.とTp.を担当。photo:廣田達也 WEBはこちら

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